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最高裁判所第三小法廷 昭和50年(オ)196号 判決 1978年7月04日

上告人

野崎産業株式会社

右代表者

米田繁三

右訴訟代理人支配人

松浦滋

右訴訟代理人

宇佐美明夫

被上告人

株式会社泉州銀行

右代表者

喜多村文雄

被上告人

日綿実業株式会社

右代表者

神林正教

右訴訟代理人

福村武雄

服部俊明

安宅産業株式会社

訴訟承継人被上告人

伊藤忠商事株式会社

右代表者

戸崎誠喜

右訴訟代理人

片岡勝

外三名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人宇佐美明夫の上告理由について

原審が適法に確定したところによると、(1) 訴外サントハム栄養食品株式会社(以下「サントハム」という。)及び訴外土屋快蔵は、サントハムの債務を担保するため、サントハム所有の本件土地建物及び土屋所有の千葉の山林を共同抵当の目的として、訴外株式会社三和銀行(以下「訴外銀行」という。)に対し第一順位の根抵当権を設定したほか、被上告人株式会社泉州銀行(以下被上告人らについていずれも「株式会社」を省略する。)、同伊藤忠商事被訴訟承継人安宅産業株式会社及び上告人のため順次根抵当権を設定し、更に本件建物と千葉の山林とを共同抵当の目的として被上告人日綿実業のため根抵当権を設定していた、(2) 昭和四一年七月、右共同抵当物件のうち千葉の山林についてまず競売がされ、その競落代金をもつて訴外銀行はサントハムに対する債権全額三四二二万四六三二円の弁済を受け、被上告人泉州銀行も第二順位の抵当権者としてサントハムに対する債権の一部弁済を受けた、(3) その結果、土屋は、サントハムに対し右弁済額と同額の求償権を取得するとともに、代位により訴外銀行の本件土地建物に対する前記第一順位の根抵当権をも取得するに至つたので、昭和四一年一二月二一日根抵当権移転の附記登記を了したうえ、右求償権及び根抵当権を訴外杉本金属株式会社に譲渡し、その附記登記を経由した。上告人は、昭和四三年二月八日同会社から右求償権の内金七七〇万七三八八円と右根抵当権の一部の譲渡を受け、同月二一日右根抵当権一部移転の附記登記を了した、(4) 一方、サントハム所有の本件土地建物も競売され、原判示の代金交付表が作成された、(5) 上告人は、昭和四五年一〇月二日の代金付期日において、上告人が順位一番の根抵当権者として前記七七〇万七三八八円の債権について配当を受けるべき地位にあるものとして異議を述べたが、被上告人らはこれを認めなかつた、というのである。

ところで、債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売がされ、その競落代金の交付により一番抵当権者が弁済を受けたときは、物上保証人は債務者に対して求償権を取得するとともに代位により債務者所有の不動産に対する一番抵当権を取得するが、後順位抵当権者は物上保証人に移転した右抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解するのが、相当である。けだし、後順位抵当権者は、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産の担保価値ばかりでなく、物上保証人所有の不動産の担保価値をも把握しうるものとして抵当権の設定を受けているのであり、一方、物上保証人は、自己の所有不動産に設定した後順位抵当権による負担を右後順位抵当権の設定の当初からこれを甘受しているものというべきであつて、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産が先に競売された場合、又は共同抵当の目的物の全部が一括競売された場合との均衡上、物上保証人所有の不動産について先に競売がされたという偶然の事情により、物上保証人がその求償権につき債務者所有の不動産から後順位抵当権よりも優先して弁済を受けることができ、本来予定していた後順位抵当権による負担を免れうるというのは不合理であるから、物上保証人所有の不動産が先に競売された場合においては、民法三九二条二項後段が後順位抵当権者の保護を図つている趣旨にかんがみ、物上保証人に移転した一番抵当権は後順位抵当権者の被担保債権を担保するものとなり、後順位抵当権者は、あたかも、右一番抵当権の上に民法三七二条、三〇四条一項本文の規定により物上代位をするのと同様に、その順位に従い、物上保証人の取得した一番抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解すべきであるからである(大審院昭和一一年(オ)第一五九〇号同年一二月九日判決・民集一五巻二四号二一七二頁参照)。

そして、この場合において、後順位抵当権者は、一番抵当権の移転を受けるものではないから、物上保証人から右一番抵当権の譲渡を受け附記登記を了した第三者に対し右優先弁済権を主張するについても、登記を必要としないものと解すべく、また、物上保証人又は物上保証人から右一番抵当権の譲渡を受けようとする者は不動産登記簿の記載により後順位抵当権者が優先して弁済を受けるものであることを知ることができるのであるから、後順位抵当権者はその優先弁済権を保全する要件として差押えを必要とするものではないと解するのが、相当である。

したがつて、原審の確定した事実関係のもとでは、被上告人らは上告人に優先して支払を受けることができるものというべきであつて、これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができその過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(服部高顯 天野武一 江里口清雄 高辻正己 環昌一)

上告代理人宇佐美明夫の上告理由

一、本件の要約

本件事実関係は一審判決事実摘示のとおりであり、これを基礎とする法律上の要点は上告人、被上告人らはいずれも訴外サントハム栄養食品株式会社(以下サントハムと略)に対する債権の担保として訴外土屋快蔵(以下訴外土屋と略)所有の千葉の山林とサントハム所有の本件物件を共同担保として、最終的には、第一順位訴外株式会社三和銀行(以下訴外三和と略)、第二順位被上告人株式会社銀行(以下泉州と略)、第三順位被上告人安宅産業株式会社(以下安宅と略)と上告人(但し本件物件の内、建物については被上告人日綿実業株式会社(以下日綿と略)が第三順位)第四順位日綿(但し本件物件の内、建物については安宅と上告人が第四順位)の順に根抵当権を設定していたものであるが、根抵当権の実行として訴外三和より先に訴外土屋所有の千葉の山林が競売され、訴外三和の被担保債権の全部と泉州の被担保債権の一部が弁済されたことから、訴外土屋が物上保証人としての弁済にともない、サントハムに対する右弁済額と同額の求償権を取得すると共に、本件物件についての訴外三和の抵第一順位根当権を取得したとしてこれが移転登記手続を経た上で、訴外土屋はこれを右求償権と共に訴外杉本金属株式会社(以下訴外杉本と略)に譲渡し、これの一部金一九、二六八、四六八円を上告人と被上告人安宅が訴外杉本より譲受け、この譲受け分の内、上告人は金七、七〇七、三八八円の譲渡を受け、各これが登記手続を経たものである。

而してかかる状況下において、泉州より順位二番の根抵当権の実行として本件物件が競売された場合の本件の配当において、上記各根抵当権者である泉州、安宅、上告人、日綿、と訴外土屋が物上保証人として弁済したことから、訴外三和から移転登記を経た順位一番の根抵当権についての配当の順位を如何にすべきかという点について、原判決は訴外土屋が取得した順位一番の根抵当権(そしてこれを同人より承継取得した杉本、安宅、上告人も同様として)よりも訴外土屋所有の千葉の山林を共同担保として次順位の根抵当権を設定していた本件物件の第二順位以下の根抵当権者である泉州、安宅、上告人、日綿を優先して配当を認めるというものであり、上告人は本件物件についての登記された根抵当権の順位に従つて配当されるべきものと主張するものである。

(尚、本件物件の競売代金、上告人らの各根抵当権の被担保債権額は第一審判決添付の代金交付表記載のとおりであることを附言する)

二、第一点 原判決は民法三七二条、同三五一条、同五〇〇条、同五〇一条の解釈適用を誤つたことから民法三七三条を適用しなかつた違法があり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかである。

(1) 原判決は、本件配当のための代金交付表作成時において、本件物件につき第一項記載のとおり登記簿上第一順位上告人、杉本、安宅、第二順位泉州、第三順位安宅、上告人、第四順位日綿の順に根抵当権が存すること、右各根抵当権がいずれも有効に存続することを確定し、第二順位以下の根抵当権については、民法三七三条を適用して代金交付表を作成しながら第一順位の根抵当権にはこれを適用していない。

而して、現行民法の明文上、民法三七三条の規定を排除すべき場合に関する規定は存在せず、且つ同法条は物権法上の原則規定として強行法と解されていること又明らかなところである。しかるにこれを本件順位一番の根抵当権に限り適用していないのであるから、原判決はこの点の違法あること明らかである。

(2) 原判決が本件順位一番の根抵当権に民法三七三条を適用せず第一項記載の被上告人らの順位二番以下の根抵当権がこれに優先するとする根拠は本件物件上の順位一番根抵当権は訴外土屋が物上保証人としてサントハムの訴外三和に対する債務を千葉の山林競売代金三四、二二四、六三二円をもつて代位弁済したことにより民法三七二条、同三五一条の定めから右弁済額と同額の求償権の範囲で民法五〇〇条に従い民法五〇一条の範囲において訴外三和に代位して取得したものであることは認められるが、この順位一番の根抵当権には千葉の山林を本件物件と共同担保として訴外三和の次順位に順次根抵当権を設定している被上告人らがその順位に従つて代位していると解する点に存する如くである。

(3) しかしながら右原判決は訴外土屋が民法三七二条で準用する同法三五一条により民法五〇〇条に従い同五〇一条の範囲において取得する権利の範囲、効力について、右各法条の解釈を誤つたものと解せられるものである。

即ち、上記各条項の規定より訴外土屋はサントハムに求償をなすべき範囲において、訴外三和がサントハムに有するすべての権能、即ち「その債権自体」が、これを担保する担保権(人的、物的担保一切)と共に、法律上の権利の移転として当然に(弁済による代位の性質については各説存するか、かく解するが現時の通説、尚注釈民法(12)三三三〜三三七頁、三四六頁我妻新訂債権総論二五二頁等御参照)訴外土屋に移転したと解されるから、訴外土屋に訴外三和から移転した権利は訴外三和がサントハムに対して有する債権、担保権そのものであり、かかる債権、担保権に千葉の山林に附された訴外三和の次順位以下の担保権の瑕疵が附着している理由はいずこにも存しないといわなければならないからである。換言すれば訴外土屋の取得した権利は、訴外三和がサントハムに対して有する権利一切をそのままの状態で訴外三和より引継いだものであるから右権利に附着する瑕疵は訴外三和とサントハム間の権利そのものに附着しているもの以外にはあり得ないというものである。この点について上告人は右に反する明文の規定を見出し得ず又学説判例も見当らないと解する。

しかして、この点原判決は上記法条の解釈を誤つたものと解さざるを得ず右解釈適用の誤りが民法三七三条を適用しなかつた違法につながつたものといわざるを得ない。

(4) ところで、本件の場合訴外土屋所有であつた千葉の山林と本件物件は、本件物件の第二順位以下の根抵当権につき共同抵当の目的とされていたものであるから、千葉の山林の一番根抵当権の実行が先行し、これにより一番根抵当権が満足すると共に千葉の山林の二番以下の根抵当権者は民法三九二条Ⅱ項にもとずきその範囲で千葉の山林の二番以下の根抵当権として本件物件の順位一番の根抵当権に代位し民法三九三条の附記登記を受けられると解される(尚、この代位は本件物件についての二番以下の根抵当権とは何ら関係なく別異のものと解するものであるが)ところ、この代位と物上保証人訴外土屋の上記の如き弁済による代位の関係は如何に解し、いずれが優先すると解すべきものであろうか。

(5) この点原判決は明らかな判示をなしていない如く解されるが、上告人は物上保証人の弁済による代位を優先させ民法三九二条Ⅱ項は適用されないと解するものであり、判例も民法三九二条Ⅱ項の適用は共同抵当の目的物がすべて債務者の所有に属する場合にのみ適用され、共同抵当の目的物の一部が債務者以外のものの所有に属するときには適用されないと(大判昭一一・一二・九、民集一五、二一七二、大判昭四・一・三〇、新聞二九四五等)するものであり、原判決もその結論から解すれば、かく解しているものと思われる(この点、原判決が別異の見解にあるとすれば、上記判例違反、法律の解釈適用の誤りが存することとなることを附言する)。

(6) よつて訴外土屋の取得した本件物件についての第一順位根抵当権は訴外三和のサントハムに対して有した権利そのものに変りなく、何ら被上告人らの第二順位以下の根抵当権による制限を受けないものといわなければならないと解される。

而して右本件物件について、順位一番の根抵当権の全部を瑕疵なく正当に取得したものとして訴外土屋より右権利を取得した訴外杉本、上告人、安宅に対し抵当権の効力の順位を定めた民法三七三条に従い、本件配当において順位一番の根抵当権者として配当さるべきこととなるであろう。

(7) しかるに原判決はこの点に何らの明文上の根拠を明示することなく訴外土屋より訴外杉本を経て上告人が取得した順位一番の根抵当権について民法三七三条の適用を排除したものであり、かかる違法の存することが判決に影響を及ぼすこと明らかであるので破棄をまぬがれないと解する。

第二点 原判決は民法三七二条で準用する民法第三〇四条Ⅰ項の解釈を誤つた違法が存する。

原判決は「本件物件についての順位一番根抵当権は物上保証人訴外土屋が取得したが、物上保証人訴外土屋が取得した順位一番根抵当権は順位二番以下の抵当権者の債権を担保し、後順位担保権者は各順位に従い右順位一番抵当権の上に代位する」と判示するが右後順位担保権者の代位は、所謂「物上代位」をいみするものと思われる。

この点につき民法三七二条、三〇四条Ⅰは物上代位の公示との関係で抵当不動産に代る金銭その他についての代位につき、担保権者は(払渡又は引渡前に差押をなすことを要す」と定め、これに対する例外規定は存在しない。

しかるに原判決はこの点「本件の如き権利の上への代位」の場合にはこれを適用できないとしているが、かかる解釈は明文の強行規定に違反し合理的根拠を有しないと解さざるを得ない。

即ち、同条項上「金銭その他の物」とある物には担保物権が目的物の交換価値から優先弁済をうけることを中心的権能とすることからみて目的物の価値に代るものにも担保権を及ぼす趣旨からして目的物の価値変形物たる一切の請求権を含むこと明らかであり、権利の上への代位の場合に限り同条項上の「物」から権利を除外する理由はしかく明らかでない。

又、差押を代位の要件とした理由を原判決は「代位の目的物を特定して維持することにより、これが債務者の一般財産に混入することを防ぎ、右一般財産に期待する債権者等を保護するためであると解し、本件の場合登記簿の記載によつて後順位抵当権者の代位により当該抵当権により優先弁済を受け得ないことを了知することができ民法三〇四条の目的は登記をもつて達成せられているからこれに加えて差押を要しない」とするものであるが、これは差押が代位目的物の特定即ち、代位目的物が抵当権の効力に服することを明らかにする点のみを重視し、この明文上「……差押えをなすことを要す」と定め、この差押が代位権者を明らかにし、所謂権利の得喪変更についての対抗要件(又は効力要件)たることを定めた点を無視するものといわざるを得ない。

即ち、「物上代位」は差押えがあつて始めて代位権者が明示され、而して物上代位物たることの効力を有し若しくは第三者にこれを対抗しうると解すべきであり、且つ代位目的請求権が第三者に移転前に差押を要する(この差押が担保権者自らなすべきものか他人のなしたもので足るか争いがあるが本件ではいずれも存しないのでこれを措く)ものとされている点もこの点を明らかにするものである。

しかるにこの点原判決は明文の規定に反し、且つこの差押えの必要性、意義を誤解した違法が存すると解する外はない。

而して本件物件の第二順位以下の根抵当権者が第一順位の根抵当権より原判決のいうとおり物上代位により弁済を受くるためには訴外土屋より訴外杉本に第一順位根抵当権が譲渡され、これが登記手続を了する迄に差押えることが必要であつたと解さざるを得ない。

しかるに本件では後順位根抵当権者からかかる差押手続は何らとられておらず、他にもかかる差押がなされたことは存しないから本件物件についての本件配当手続においては訴外杉本(而して上告人、定宅も同様)は一番根抵当権者として被上告人らの後順位抵当権により何ら制限されず優先的に配当を受け得るものといわざるを得ない。

この点原判決が上記法令の解釈を誤つたこと明らかでこれが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから破棄を免れない。

第三点 原判決は民法一七七条の解釈適用を誤つた違法が存する。

第二点で述べたとおり原判決は「本件物件についての順位一番の根抵当権は順位二番以下の抵当権者の債権を担保し、後順位担保権者は各順位に従い右順位一番の抵当権の上に代位する」と解するが、これは「不動産に関する権利の得喪及び変更」に関するものではないのであろうか。しかるときは、この点に関する民法一七七条の定める「……登記なくして第三者に対抗し得ない」とされる点を如何に解することになるのであろうか。又この登記手続を不用とされる理由はしかく明らかでない。

上告人は一番根抵当権上への二番抵当権者らの代位は「不動産に関する権利の変更」と解されるから登記せられて始めて対抗力をもつものとされなければならないと解するものであり、この登記手続は、所謂物上代位の公示としては民法三〇四条Ⅰ項の差押手続によらなければならないと解するものであり、又は民法三九二条Ⅱ項、三九三条に従つて登記手続がなされなければならないと解する。

しかるに本件においては、かかる手続が何らとられず登記簿上何らの記載はされていないこと上記のとおりであり、この点で原判決は民法一七七条の解釈適用を誤つた違法があり判決に影響を及ぼすこと明らかであるので破棄を免れない。

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